
| 私が青磁の魅力にとりつかれるきっかけを与えてくれたひとつに、デイヴィット・コレクションの「南宋官窯下蕪形瓶」がある。 今回、それにも勝る品格を持つ「汝官窯下蕪瓶」がやってくるという。日本であの気品に再開できるのだ。 デイビィット・コレクションを初めて訪れたのは、10年ほど前、古美術好きの友人と三人でロンドンに一週間滞在した折であった。 大英博物館の裏玄関を抜けたところにある閑静な住宅街の中の建物。中に入るとデイビィット卿が集めた中国陶磁器がびっしりと並んでいる。「ところ狭し」という言葉は、このようなときに使うのだろう。中国陶磁にあこがれたり、研究しているものにとっては、このうえない陳列である。 結局、滞在中に4日間、ここに通うことになった。 大英博物館でエジプトやオリエントの出土品を見ていると、何かがぐいぐいと迫ってくるようで疲れてしまう。 しかし、デイビィット・コレクションの前に立つと陶磁美術の圧倒的な濃度にもかかわらず、圧迫される感じは全くない。押しつけがましさがない、とでも言うか、どこまでも、どこまでも、その美の中に引き込まれていく。見る者の意識と美しさが寄りそいあっていく。 中国陶磁の歴史の中にはもっと存在感を放射するような作品も作られているが、コレクションにはその種のものは見当たらない。 宮廷の人々の美しさへのあこがれが染み込んだ作品の数々。これらを収集したデイビィット卿の美意識もまた、作品群の中に溶け込んでいるように見える。 |
(1998.10.12 読売新聞 夕刊 「デイビィット・コレクション展」に寄稿) |